榎木孝明の近況や日々感じた事柄を文章にして、毎月更新しています。
榎木孝明
2025年4月1日 役者とは
「不思議ではないか、役者と言うものは作り事や激しい夢想を魂の底から思い描いているのだ。そうやって演じるからこそ、顔面蒼白、目には涙、顔には苦悩、声をふるわせ、全身全霊で役になりきるのではないか。」
これはハムレットが、役者たちを見て喋るセリフです。400年前の役者たちも、今の時代の私たちがやっていることと、同じことをやっていたわけです。
この歳になって今更ですが、芝居の本質とはなんだろうと時々考えてしまいます。キャリアを積んだからといって、役者として進歩しているかどうかは分かりません。むしろ時代が変わっていく中で、果たして自分の芝居がこの時代に通用しているのかと言う焦燥感があったりもします。時代の推移とともに微妙に演じる方法も変わっていきます。自分のスタイルだけにこだわるわけでもなし、かといって今の時代に迎合するわけでもなし、といった常に移ろいゆく自分がいることも確かです。
役作りは本質的なところに常に人間がいるところから始まりますが、キャラクターは十人十色、生まれも違えば生き方も違うので、表現する人物像は様々です。自分が演じるキャラクターを想像し、創造していくところから始まります。自分の我はなるべく小さく抑えて、表現するキャラクターが徐々に大きくなっていき、やがて自分とは別人格の人物が出来上がる。その迷いや葛藤が自分を育ててくれることにもなっているのかもしれません。
自分が自分と言う身体を持っている以上、100%我を無くすと言う事は無理かと思いますが、今までの自分の範疇ではなかった性格を想像して演じる事は可能かと思います。その演じるための引き出しは、これまでの人生経験だったり、想像力の豊かさであったりします。自分の我が勝ってしまうと役作りには足を引っ張ってしまいます。役者には定年がありませんので、役者を自認している以上は、生涯にわたってこんな思いを続けていくことになりそうです。それは苦しみでもあり、楽しみでもありといったところでしょうか。この世に生きている限り、人は皆何かを演じて生きているのかもしれないですね。
榎木孝明
